SEよ、豊かな語彙を「使うな」

投稿日:2012年06月19日 作成者:yasunaka

IT Proに「SEよ、豊かな語彙を持て」という記事があって、気になって読んでみたのですが、正直これは何?と思ったので、ここに書いておきます。

記事の内容としては、SEが設計書を書く際、豊かな語彙を知っていないと、正確に内容を伝えることができないよ、というもの。記事からの抜粋ですが、「ある概念を示すのに言葉を1つか2つしか知らないとすると、どうやって分かりやすいとか簡潔だとか言えるのか。同義語を5つ6つ知っていて、文章を読む人の立場を考えて、適切な言葉を選んで使う。その結果、分かりやすく簡潔になる。」などと主張されています。

Twitterなどの呟きを見ると

・肯定的な意見

・自分の語彙数に関する感想など

が書かれていて、総じてこの記事に反論する呟きがあまり見当たらなかったのですが、それが私にはとても不思議に感じたのです。

豊かな語彙を知っているべき、という主張そのものは、もちろん、その方がいいに決まっているのですが、その豊かな語彙を設計書に反映させるとなると、話は別で、絶対に反対です。

というのは、設計書は正確に「書く」という点も重要なのですが、関係者に正確に「伝える」、という観点はもっと重要です。そういった意味では、中学生が読んででも内容に齟齬が生じないような書き方の方が望ましいのです。そのためには、むしろ、使用する語彙数を制限し、できるだけ簡潔な言葉で記述するべきなのです。

微妙なニュアンスが重大な意味を持つような設計書なんで、危険極まりない。だったら、そんな微妙なニュアンスは、むしろ設計書からは除外すべきじゃないですか?

しかもオフショア開発が盛んな昨今、そんな設計書は海外に渡せません。

そんな設計書、誰がメンテナンスするんですか?

設計書の品質を高めるために重要なのは、語彙数を増やすことではなく、言葉の意味がぶれないように、できるだけ統一した基準で記述することです。例えば概要設計の段階で、使う単語を統一するために辞書を作りますよね。概念モデルだって、できるだけ簡潔な言葉で表現します。ユースケースだって、書きっぷりを揃えるのは基本中の基本です。つまり現場は、こうして努力して語彙数を減らす方向に持っていこうとするのです。

で、SEは、どこでその豊かな語彙を使うのですか? SEは小説家ではないのです。

この記事の一方の当事者である福田さんが書かれた書籍『SEを極める 仕事に役立つ文章作成術』は、私はまだ読んでいませんが、目次を見る限り、非常に良い内容が書いてあるように思えます。それに対して、この記事での取り上げ方が「語彙数」というごく一部分にフォーカスし過ぎ、何か本質的ではない部分を、記者の視点で歪めてしまったのではないか? そんな気もしました。

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